ちっちっchi

バレンタインというイベントがこんなに派手なイベントだと知ったのは日本に来てからだった。

[6回]

アメリカにいたときはバスケほどの関心もなかった
日本に来て2月14日になると、クラスの男子がソワソワしているのを見て女性からプレゼントを渡して告白する日なのだと知った。
アメリカではそんな特別な日がなくても普通に女性から告白するから特別取り立ててイベントにする必要もなかった。
これも奥手の日本人ならではの習慣なのだろう。
バスケ部の連中でもその日になれば緊張するらしい。
俺から見ればそんな彼らはすごくかわいい。
で、今日がそのバレンタインデー。
クラスでは呼び出されたり、告白したりする男女の姿が見られた。
放課後部室では大泣きしているキャプテンと周りではしゃいでいる先輩達がいた。
「やっぱりわしは一個ももらえんのか」
「モミアゴリラだしあたりまえアル」
「劉、あんまりからかうな。ゴリ大丈夫だ」
「福井、何の根拠もなく気休めはよせ、いいんじゃいどうせ・・・」
あまりにキャプテンが気の毒だ。
氷室は昨日コンビニで昨日念のためチョコレートを買っておいて良かったと思った。
そのチョコの入った袋をカバンから取り出したところで、大きな手がにゅっと伸びてきてそれをつかんで全て持っていかれた。
 
「敦～そんなに食べたら虫歯になるよ」と大きな体の紫原に微笑んだ。
 
「ダメダメ絶対に他の誰にもあげないよ」
 
紫原はそのチョコを高く持ち上げた。
２m超えの長身な紫原には届かない。
軽くため息をついてからもう一度キャプテンと先輩達を見た。
彼らはまだ騒いでいた。
氷室は紫原の頬に手を伸ばして顔を近付けた。
 
「返してくれたらもっといいものあげるよ」と囁いた。
「何？」紫原も不思議そうに氷室を見た。
「何でも」
囁く声は先輩達には聞こえていない。
「何がいい？」
またにっこりと微笑むと紫原は手にしていたチョコの袋を抱え込んだ。
「これが良い！」
また会話が元に戻ったようでどっと疲れた。
なんでこんなものにこだわるんだろう。
それなら仕方ないからもう一度買いに行ってこよう。
 
「わかったよ敦。それはあげるよ」と立ち上がる。
「待って室ちんどこ行くの？」
と紫原が制服の裾を引っ張った。
「敦が返してくれないから新しいの買いに行ってくる」
「ダメ！」
紫原は氷室の服を引っ張って、バランスを崩した氷室が紫原の上に尻餅をついてしまった。
「何してるアル」
劉が気づいてそう言うと他の岡村と福井もこっちを見た。
氷室は笑いながら紫原の上から立ち上がった。
その拍子に紫原からチョコレートの入った袋を取り返した。
「あの・・これ」
そのまま岡村の前に差し出すとそれを紫原がまた取り上げた。
 
「敦！いい加減俺でも怒るよ」
 
「だって、室ちんが他の人にチョコあげるの嫌なんだもん！！」
 
その言葉に思わず動きが止まった。
あれ？だからさっき袋ごと全部持っていったの？
ああ、そうか・・・
でもなんだかおかしくなって氷室は笑い出した。
 
「氷室？」
「室ちん？」
みんなが一斉に氷室を見た。
 
紫原の持っている袋を指さした。
「チョコレート買ったんだ。けど・・・」
困った顔で紫原を盛ると岡村が嬉しそうに紫原の持っている袋を取りあげた。
その手から紫原がもう一度取り上げた。
 
「ダメダメ！全部俺の～」
「しょうがないなぁ～敦にはもっと大きいの買ったよ」
袋から大きい包みをつり出すとようやく紫原は手を離す。
「お前らは先輩をなんだと思ってるんじゃい！」
岡村は涙目でそう言った。
悪いことしたなぁ
でも敦にそんな風に言われると俺も弱いなぁ
「室ちん大好き」
嬉しそうに笑う敦に何も言えなくなった。
 
「結局のろけアル。福井のチョコはどこアルか？」
キョロキョロする劉に福井は頬を膨らませた。
「んなもんねぇよ！」
「結局お前らは自分たちだけで盛り上がってればいいんじゃい！」
岡村が怒り出した。
すると紫原が岡村に氷室のチョコを差し出した。
「これあげる」
「敦は良い子だね」
にっこりと微笑む氷室に岡村は
「良い後輩を持った」
とまた泣いた
 
 
おわり

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